夜と世の物語【8】

ドアをけたたましく叩く音で彼女は目が覚めた。

「しまった。」と言い彼女は時計を見た。

すでに夜の7時を回っていた。いくら夏が近づいているとはいえ外はすっかり暗くなっていた。

ドアを開けるとイライラした様子の里子が立っていた。

「あんたが行きたいって言ったからこっちは付き合ってるんだけど。」とぶっきらぼうに言うのを見て「ごめん。すぐ支度する。」と言い彼女は再びドアを閉めた。

今日は彼女たちの休みの日であり、夜市にいく約束をしていたのだ。

寝ぼけ眼をこすりながら彼女は歯を磨き、顔を洗い、支度をした。

夜市までの道で里子は彼女を待っている間に家事や身の回りのことをできたとくどくど浴びせた。

里子ははっきりとものを言う。非常に口の立つ女であった。

彼女はそんな里子といるとなんだか居心地が良い気がした。

普段から自分や周りのことを気に留めない彼女にとって、自分や周りを気にする里子は珍しい存在であった。

整備されていない夜の道はそこらじゅうに小石が落ちており、手ごろな石を蹴って転がしながら彼女は里子の愚痴に近い話を聞いていた。

夜道の先には夜市の明かりがぼんやりと幻想的に光っており、人々のざわめきが聞こえていた。