夜と世の物語【10】
彼女は肩に触れた手を払いのけると振り向きざまに掌を大きく振りかぶり手の主を叩いた。
バチンと鈍い音がした。どうやら主の顔面に綺麗に当たったらしい。
手応えと共に「ぶへえ!」と情けない声が聞こえた。
彼女は普段あまり感情を表に出さないが、自分のペースを乱されると不機嫌になる。そもそも彼女が自分のペースを作り出すこと自体はあまりないのだが。
手の主はそんな珍しい状況に遭遇してしまった。
彼女は若干不機嫌な様子で暗闇の手の主を確かめようとした。
暗闇に目が慣れてきて見えた主の招待は坊主頭の男であった。
額に小さな傷があるがそれは彼女がつけたものではないようだ。
「なに?・・・なんですか?」彼女が怪訝な表情で問いかけると男は顔面を擦りながら「いや、女の子がこんな暗い所に一人でいるもんでどうしたかと思っただけだ。いきなり声をかけて驚かすのも悪いしな。」と言う。