夜と世の物語【9】
暗い夜の闇の中、ネオン街の目が眩む明かりではない、提灯やガス灯の明かりで夜市は満たされていた。
市場には屋台が立ち並び、人々は活気に満ちていた。
そんな祭りに似た、独特の雰囲気の中、彼女と里子は買う物を物色していた。
里子は店に着けていく髪飾りを、彼女は食料を買うことが主な目的だったが、夜市の雰囲気は彼女たちをそれだけで帰さなかった。
屋台のなにもかもが魅力的であり、必要な物に見えた。
もちろん、それが夜市の狙いでもあるのだろう。屋台の店主たちは彼女たちに自慢の商品をどんどん宣伝していく。
しかし、持ち合わせの金は限られている。彼女たちも強かに値切りの交渉を行う。
里子の髪留めの値切り交渉に熱が入り始めた頃、そんな空気に飽き始めた彼女は屋台の群れを離れた。
石を蹴り転がしながら、石が転がった方向に進んでいくと、段々と人気が少ない方へ向かっていった。
ふと顔を上げると屋台の明かりからはだいぶ離れてしまっていた。
早く戻らなければ里子にどんな小言を言われるかわかったものではない。
だが、彼女は今、一人で夜に紛れていた。
彼女は目を閉じる。木々が風で揺れている音がする。人々の喧騒が段々と遠ざかっていく。夜の暗がりに彼女の意識が溶け込んでいく。
その時だった。暗がりから大きな手のひらが彼女の肩に触れた。